東京地方裁判所 昭和59年(行ウ)69号 判決 1989年7月24日
東京都北区赤羽二丁目三二番一号
原告
寺西商事株式会社
右代表者代表取締役
寺西静治
右訴訟代理人弁護士
鈴木武志
右訴訟復代理人弁護士
伊東良德
東京都北区王子三丁目二二番一五号
被告
王子税務署長
田中嘉昭
右指定代理人
遠山廣直
同
石黒邦夫
同
塚本博之
同
渋谷三男
主文
原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
事実
第一当事者の求める裁判
一 請求の趣旨
1 被告が原告の昭和五四年一〇月一日から昭和五五年九月三〇日までの事業年度の法人税について昭和五六年一二月二六日付けでした更正(ただし、所得金額については一七五三万三九〇六円、法人税額については一〇一三万六〇〇〇円を超える部分)及び重加算税賦課決定(ただし、更正及び重加算税賦課決定とも審査裁決により一部取り消された後のもの)を取り消す。
2 訴訟費用は被告の負担とする。
二 請求の趣旨に対する答弁
主文と同旨
第二当事者の主張
一 請求の原因
1 原告の昭和五四年一〇月一日から昭和五五年九月三〇日までの事業年度(以下「本件事業年度」という。)の法人税について、原告は被告に対し、青色申告書をもって、別表一の順号<1>記載のとおり確定申告(以下「本件確定申告」という。)をしたところ、これに対し、被告は、同表の順号<2>記載のとおり更正及び重加算税賦課決定をした。右更正及び重加算税賦課決定に対して原告がした審査請求の経過は同表の順号<3>及び<4>記載のとおりである(以下、同表の順号<2>記載の更正のうち同表の順号<4>記載の審査裁決で一部取り消された後のものを「本件更正」と、同表の順号<2>記載の重加算税賦課決定のうち同表の順号<4>記載の審査裁決て一部取り消された後のものを「本件賦課決定」といい、また、本件更正と本件賦課決定とを併せて「本件各処分」という。)。
2 原告は、本件更正(所得金額については一七五三万三九〇六円、法人税額については一〇一三万六〇〇〇円を超える部分)及び本件賦課決定に不服があるので、その取消しを求める。
二 請求の原因に対する認否
請求の原因1は認める。
三 抗弁
1 本件更正の適法性
(一) 所得金額
(1) 原告の本件事業年度の所得金額は、別表二記載のとおり四四一八万四〇五六円である。
(2) 別表二記載の加減算の理由及びその金額の算定根拠は次のとおりである。
ア 土地譲渡収益計上漏れ
二二四六万二四〇〇円
原告は、本件確定申告に当たり、原告代表者寺西静治との間で、昭和五五年一月ころに、同人からその所有に係る埼玉県飯能市大字久下字川端四五九番地一所在の宅地一〇二八平方メートル及び同所四六〇番地一所在の山林三九平方メートル(以下「本件各土地」という。)を代金三〇〇〇万円で譲り受ける旨を約した上、これを東洋通商株式会社に代金六〇〇〇万円で譲渡したとして、本件各土地の譲渡に係る譲渡収益の額を六〇〇〇万円と計上した。
しかし、原告は、本件各土地を寺西静治から譲り受けた後、これを代金八二四六万二四〇〇円で株式会社大塚商事(以下「大塚商事」という。)に譲渡したものであって、本件各土地の譲渡に係る譲渡収益の額は八二四六万二四〇〇円である。したがって、原告が本件確定申告に当たり計上した譲渡収益の額六〇〇〇万円と大塚商事に対する譲渡価格八二四六万二四〇〇円との差額である二二四六万二四〇〇円が、本件各土地の譲渡収益の計上漏れとなる。
イ 販売手数料否認 二六六五万〇一五〇円
原告は、本件確定申告に当たり、本件各土地の取引に関し、別表三記載のとおり、株式会社甲信、東京ファッション株式会社、セントラル通商株式会社、株式会社エムアンドエムエンタープライズ、株式会社三幹及び株式会社ギフト商会(以下、右各社を順次「甲信」、「東京ファッション」、「セントラル通商」、「エムアンドエム」、「三幹」、「ギフト商会」といい、右各社を総称する場合は「甲信ほか五社」という。)に対し合計二六六五万〇一五〇円の販売手数料を支払うべき義務を負担し、これを原告の甲信ほか五社に対する昭和五五年九月三〇日現在の債権と相殺する方法で支払ったものとして右金額を損金の額に算入した。
しかし、本件各土地の取引に甲信ほか五社が関与したと認めるべき事情は存在しないから、原告が甲信ほか五社に販売手数料を支払うべき理由はなく、したがって、右の販売手数料の額を原告の本件事業年度の損金の額に算入することはできない。
ウ 仲介手数料損金算入額
五〇〇万〇〇〇〇円
原告は、大塚商事に対する本件各土地の譲渡に関し、その仲介業務を行った有限会社飯能建設に仲介手数料として五〇〇万円を支払ったと認められるので、右仲介手数料の額は損金の額に算入すべきところ、原告は、本件確定申告に当たって、右仲介手数料の額の損金算入をしなかった。
(二) 課税土地譲渡利益
(1) 本件土地の取引に係る原告の課税土地譲渡利益となるべき金額は、別表四記載のとおり四六四六万四七六〇円である。
(2) 別表四記載の課税土地譲渡利益となるべき金額の算定根拠は次のとおりである。
ア 本件各土地の譲渡による収益の額は、右(一)の(2)のアの大塚商事に対する譲渡代金額八二四六万二四〇〇円である。
イ 本件各土地の原価の額は、右(一)の(2)のアの寺西静治からの譲受代金額三〇〇〇万円である。
ウ 本件各土地の譲渡のために直接又は間接に要した経費の額は、次のa及びbの合計金額五九九万七六四〇円である。
a 負債利子の額 一五万〇〇〇〇円
租税特別措置法施行令三八条の四第六項一号に基づき、同号の保有期間を昭和五五年三月八日から同月三一日までの一月として、右イの本件土地の原価の額三〇〇〇万円に保有期間の月数一月を乗じこれを一二で除した金額に一〇〇分の六の割合を乗じて計算した額である。
b 販売費及び一般管理費の額
五八四万七六四〇円
原告が本件確定申告の際の課税土地譲渡利益の計算において、租税特別措置法施行令三八条の四第六項二号の販売費及び一般管理費の額として、同条第八項に基づくものとして算出した金二七四九万七七九〇円から、右(一)の(2)のイの販売手数料否認額二六六五万〇一五〇円を差引き、右(一)の(2)のウの仲介手数料損金算入額五〇〇万円を加えた額(仲介手数料の金額五五〇万円及び不動産取得税の金額三四万七六四〇円を合計した金額に相当する。)である。
(三) 法人税額
原告の本件事業年度の法人税額は、別表五記載のとおり、二五九二万二四〇〇円である。
(四) 本件更正に係る所得金額は右(一)の(1)の本件事業年度の所得金額の範囲内であり、本件更正に係る課税土地譲渡利益金額は右(二)の(1)の原告の本件各土地の取引に係る課税土地譲渡利益となるべき金額と同額であり、本件更正に係る法人税額は右(三)の原告の本件事業年度の法人税額の範囲内であるから、本件更正は適法である。
2 本件賦課決定の適法性
(一) 本件更正に伴って増加した法人税額は二一八〇万〇一〇〇円であるところ、原告は、右1の(一)の(2)のアのとおり、本件各土地を大塚商事に譲渡したことによる原告の収益の額が八二四六万二四〇〇円であるにもかかわらず、これを東洋通商株式会社に対して六〇〇〇万円で譲渡したかのように仮装して、右各金額の差額二二四六万二四〇〇円を本件事業年度の益金の額に算入しなかったばかりか、右1の(一)の(2)のイのとおり、本件各土地の取引に係る仲介手数料の額が有限会社飯能建設に対する五〇〇万円のみであるにもかかわらず、本件各土地の取引に何ら関与していない甲信ほか五社に対し本件各土地の譲渡に係る販売手数料として二六六五万〇一五〇円を支払ったものとして、右金額を損金の額に計上して、本件申告をしたものであり、右行為は、国税通則法六五条一項の規定に該当する場合において、法人税の課税標準等又は税額の計算の基礎となるべき事実を隠蔽し又は仮装し、その隠蔽し、又は仮装したところに基づき納税申告書を提出していた場合に当たるものである。
(二) したがって、昭和六二年法律第九六号による改正前の国税通則法六八条一項に則り、本件更正に伴って増加した法人税額二一八〇万円(昭和五九年法律第五号による改正前の同法一一八条三項により一〇〇〇円未満の端数を切捨て)に一〇〇分の三〇の割合を乗じて計算した重加算税の額六五四万円を賦課した本件賦課決定は適法である。
四 抗弁に対する認否
1(一)(1) 抗弁1の(一)の(1)は否認する。
(2)ア 同(2)のアは認める。
イ 同イのうち、原告が本件確定申告に当たり本件各土地の取引に関し甲信ほか五社に対し主張の金額の販売手数料を支払うべき義務を負担し、これを甲信ほか五社に対する昭和五五年九月三〇日現在の債権と相殺する方法で支払ったものとして損金の額に算入したこと及び右金額が本件各土地の取引に係る販売手数料に当たらないことは認め、その余は争う。後記五のとおり、右金額は、原告の本件事業年度における貸倒損失の額として損金の額に算入されるものである。
ウ 同ウは認める。
(二)(1) 同(二)の(1)は否認する。
(2)ア 同(2)のア及びイは認める。
イa 同ウのaは認める。
b 同bのうち、本件確定申告の際の課税土地譲渡利益の計算において、租税特別措置法施行令三八条の四第六項二号の販売費及び一般管理費の額として、原告が同条八項に基づくものとして算出した金額が二七四九万七七九〇円であることは認め、その余は否認する。
(三) 同(三)のうち、別表五の順号<5>記載の控除所得税額等の金額は認め、その余は争う。
(四) 同(四)は争う。
2 同2は争う。
五 原告の主張
1 次の2ないし7に述べるとおり、原告は、甲信ほか五社に対し、別表三記載の金額と同額の債権を有していたところ、本件事業年度中に甲信ほか五社はいずれも事実上倒産するに至り、原告の右債権の回収は不可能となったので、右債権額は、原告の本件事業年度における貸倒損失の額として損金の額に算入されるものである。
2 甲信関係
(一)(1) 原告は甲信に対し、別表六記載のとおり、昭和五四年二月二六日から昭和五五年七月三一日までの間に、一七回にわたり、同表記載の約束手形又は小切手を振り出して、合計二五二一万五五〇〇円を貸し付け、そのうち、一二二六万五五〇〇円の返済を受けたが、残額一二九五万円の貸金債権を有していた。
(2) 仮に右(1)の事実が認められないとしても、原告は、昭和五五年九月三〇日までに甲信に対し輸入雑貨品等を売り渡した売掛代金債権一二九五万円を有していた。
(二)(1) 甲信は、輸入雑貨品等の販売を業としていたが、資金繰りが悪化し、昭和五五年三月一五日及び同月三〇日に支払手形の不渡事故を起こして事実上倒産した。甲信には、みるべき資産がなく、破産等の法的手続又は任意整理等の方法による清算は行われなかったので、原告の右(一)の債権は全額が回収不能となった。
(2) なお、原告は、右(一)の債権の支払のために、別表七記載のとおり、甲信から、約束手形六通の振出しを受け、また、株式会社武蔵屋物産、株式会社ホンダリボン、東洋技研株式会社及び有限会社エム・ジー本社(以下、右各社を順次「武蔵屋物産」、「ホンダリボン」、「東洋技研」及び「エム・ジー」という。)の振出しに係る約束手形合計一〇通の裏書譲渡を受けていたが(以上約束手形一六通の金額の合計は一一八四万〇三二〇円)、右(1)のとおり甲信が事実上倒産しているほか、その余の各振出人もいずれも銀行取引停止処分を受けて事実上倒産しているので、右各手形金の支払を受けて右(一)の債権の弁済に充当することも不可能である。
3 東京ファッション関係
(一) 原告は、昭和五五年九月三〇日までに東京ファッションに対し輸入雑貨品等を売り渡した売掛代金債権九一四万四八五〇円を有し、その支払のために、東京ファッションから、別表八記載の小切手七通の振出し(小切手の金額の合計は八一三万四〇九六円)を受けていた。
(二) 東京ファッションは、昭和五四年一月に支払手形の不渡事故を起こし、そのころ銀行取引停止処分を受けて事実上倒産した。東京ファッションには、一般債権者に対する弁済に充てることのできる資産は全くなく、原告の右(一)の債権は全額が回収不能となった。
4 セントラル通商関係
(一) 原告は、昭和五五年九月三〇日までにセントラル通商に対し輸入雑貨品等を売り渡した売掛代金債権一八四万九三〇〇円を有し、その支払のために、別表九の順号<1>ないし<3>記載の約束手形三通の振出しを受けていた。
(二) セントラル通商は、輸入雑貨品等の販売を業としていたが、資金繰りが悪化し、昭和五四年一〇月に支払手形の不渡事故を起こして事実上倒産した。セントラル通商には、債権者に対する弁済に充てることのできる資産は全くなく、原告の右(一)の債権は全額が回収不能となった。
5 エムアンドエム関係
(一) 原告は、昭和五五年九月三〇日までにエムアンドエムに対し輸入雑貨品等を売り渡した売掛代金債権一〇四万円を有し、その支払のために、別表九の順号<4>記載の約束手形一通の振出しを受けていた。
(二) エムアンドエムは、輸入日用品、衣料、雑貨等の販売を業としていたが、昭和五四年一〇月に支払手形の不渡事故を起こし、そのころ銀行取引停止処分を受けて事実上倒産した。エムアンドエムには、債権者に対する弁済に充てることのできる資産は全くなく、原告の右(一)の債権は全額が回収不能となった。
6 三幹関係
(一) 原告は、昭和五五年九月三〇日までに三幹に対し輸入雑貨品等を売り渡した売掛代金債権六六万六〇〇〇円を有し、その支払のために、別表九の順号<5>記載の約束手形一通の振出しを受けていた。
(二) 三幹は、宣伝用品の製造販売を業としていたが、昭和五五年一月ころに支払手形の不渡事故を起こして事実上倒産した。三幹には、みるべき資産はなく、任意整理の方法により清算を行ったが、原告を含む一般債権者に対する配当はほとんどないまま終了し、原告の右(一)の債権は全額が回収不能となった。
7 ギフト商会関係
(一) 原告は、昭和五五年九月三〇日までにギフト商会に対し輸入雑貨品等を売り渡した売掛代金債権一〇〇万円を有し、その支払のために、別表九の順号<6>記載の約束手形一通の振出しを受けていた。
(二) ギフト商会は、日用品雑貨等の卸し及び小売販売を業としていたが、昭和五四年一二月までに支払手形の不渡事故を起こして、その頃事実上倒産した。ギフト商会には、原告を含む一般債権者の配当に充てることのできる資産がなく、原告の右(一)の債権は全額が回収不能となった。
六 原告の主張に対する被告の認否及び反論
1 原告の主張1は争う。
2(一) 同2の(一)は不知。
(二)(1) 同(二)の(1)のうち、原告の甲信に対する債権が回収不能となったことは否認し、その余は不知。
(2) 同(2)のうち、武蔵屋物産、ホンダリボン及び東洋技研がそれぞれ銀行取引停止処分を受けていることは認め、その余は不知。
3(一) 同3の(一)は不知。
(二) 同(二)のうち、原告の東京ファッションに対する債権が回収不能となったことは否認し、その余は不知。
4(一) 同4の(一)は不知。
(二) 同(二)のうち、原告のセントラル通商に対する債権が回収不能となったことは否認し、その余は不知。
5(一) 同5の(一)は不知。
(二) 同(二)のうち、原告のエムアンドエムに対する債権が回収不能となったことは否認し、その余は不知。
6(一) 同6の(一)は不知。
(二) 同(二)のうち、原告の三幹に対する債権が回収不能となったことは否認し、その余は不知。
7(一) 同7の(一)は不知。
(二) 同(二)のうち、原告のギフト商会に対する債権が回収不能となったことは否認し、その余は不知。
8 反論
法人の有する貸金等について、税務上貸倒れとして損金算入が認められるのは、その債務者の資産状況、支払能力等からみて、その全額が回収できないことが明らかになった場合において、その明らかになった当該事業年度において貸倒れとして損金経理することが条件とされている(法人税法基本通達九-六-二参照)。しかるに、原告は、本件事業年度において、甲信ほか五社に対する原告の主張2ないし7の各(一)の債権額合計二六六五万〇一五〇円について、これを貸倒損失金とする旨の会計処理を何らしていないのであるから、右債権額を本件事業年度の損金の額に算入することはできない。
第三証拠
本件訴訟記録中の書証目録及び証人等目録記載のとおりであるから、これを引用する。
理由
一 請求の原因1の事実は当事者間に争いがない。
二 そこで、まず、原告の本件事業年度の所得金額について判断する。
1 抗弁1の(一)の(2)のア及びウの各事実、並びに、イのうち、原告が本件確定申告に当たり本件各土地の取引に関し甲信ほか五社に対し別表三記載の合計二六六五万〇一五〇円の販売手数料を支払うべき義務を負担し、これを甲信ほか五社に対する昭和五五年九月三〇日現在の債権と相殺する方法で支払ったものとして損金の額に算入したこと及び右金額が本件各土地の取引に係る販売手数料に当たらないことは当事者間に争いがない。
2 原告は、甲信ほか五社に対し別表三記載の金額と同額の債権を有していたところ、本件事業年度中に甲信ほか五社はいずれも事実上倒産するに至り、原告の右債権の回収は不可能となったので、同表記載の合計二六六五万〇一五〇円は原告の本件事業年度における貸倒損失の額として損金の額に算入されるものである旨主張するので、以下、この点について検討する。
(一) 法人がその有する貸金、売掛金等の債権を回収不能であるとし、貸倒れとして損金とすることが税務上許容されるためには、債務者の資産状況、支払能力等から当該債権の回収が不可能であることが、当該事業年度において明らかとなったことを必要とし、また、右の債務者の資産状況、支払能力等から当該債権の回収が不可能であることが明らかになったこととは、債務者に対して強制執行を行い、若しくは債務者について破産手続がされたが債権を回収することができなかった場合、あるいは、債務者に対する会社更生、和議、整理等の手続において債権の免除があった場合などのほか、これらの場合に準じ、債権の担保となるべき債務者の資産の状況が著しく悪化している状態が継続していながら、債務者の死亡、所在不明、事業閉鎖等によりその回復が見込めない場合、債務者の資産負債の状況、信用状況及び事業の性質並びに債権者たる法人による債権回収の努力及びこれに対する債務者の対応等を総合して債権の回収ができないことが明らかに認められる場合であって、かつ、法人が当該債権の放棄、免除をするなどしてその取立てを断念したような場合などを含むものと解するのを相当とする。もっとも、いずれの場合であるにせよ、当該債権が現実に存在することが、その前提として必要であることはいうまでもないが、当該債権の回収ができないことが明らかとなった事業年度中に貸倒れとして損金経理をしておかなければ、その後になって、当該債権についてこれを貸倒損失金であるとする主張がし得なくなるものと解すべき実定法上の根拠はない。
(二) 甲信関係の主張について
(1) 原告は、甲信に対し、別表六記載のとおり、昭和五四年二月二六日から昭和五五年七月三一日までの間に、一七回にわたり、同表記載の約束手形又は小切手を振り出して、合計二五二一万五五〇〇円を貸し付け、そのうち、一二二六万五五〇〇円の返済を受けたが、残額一二九五万円の貸金債権を有していた旨主張する。
そして、原告代表者尋問の結果により成立の真正を認め得る甲第四一ないし第六二号証によれば、原告が同表の順号<1>ないし<17>に記載の約束手形又は小切手をそれぞれ振り出したことを示す約束手形又は小切手の原符(いわゆる「耳」)が存在することを認めることができるところ、原告代表者は、右約束手形又は小切手は、原告が甲信から手形の振出し又は裏書を受けるのと交換に甲信に対して振り出し交付したもので、その金額と同額を甲信に対し貸し付けたものであると供述するけれども、右原符自体からは、これに係る約束手形又は小切手が金員の貸与を原因関係として振り出されたものであることを認めることはできず、却って、原符のうち、同表の順号<1>ないし<7>記載の小切手又は約束手形に係るもの(甲第四一ないし第四七号証)、順号<8>記載のうちの金額一〇〇万円及び一六五万円の各約束手形に係るもの(甲第四八、第五〇号証)、順号<9>記載の約束手形に係るもの(甲第五一ないし第五三号証)、順号<12>ないし<16>記載の各約束手形に係るもの(甲第五六ないし第六〇号証)には、いずれも「返金」又は「仕入」等の金員の貸与以外の原因関係と思われる記載があるほか、原告代表者の前記供述、特にその右約束手形又は小切手の振出しの経緯に関する部分は、多分に推測を交え、曖昧で、具体性及び一貫性を欠いているので、右供述を直ちに措信することはできず、他に原告が主張の金員を甲信に対して貸し付けたことを認めるに足りる証拠はない。
(2) また、原告は、昭和五五年九月三〇日までに甲信に対し輸入雑貨品等を売り渡した売掛代金債権一二九五万円を有していたとも主張するところ、成立に争いのない甲第五号証の二、原告代表者尋問の結果により成立の真正を認め得る甲第五号証の一、第六、第七号証、第六四号証の一三、弁論の全趣旨により成立の真正を認め得る甲第四〇号証の一ないし一七、二〇ないし二四、第六九号証及び右尋問結果並びに弁論の全趣旨によれば、
ア 原告の売上台帳上、甲信に対する売上及び売掛金の入金等の記載は本件事業年度中の昭和五五年六月一七日分まであり、同日現在の売掛金の残高は一円とされていること、
イ 同日までに原告が受け入れて入金の処理をした約束手形のうち、a売上台帳上、昭和五四年一二月三日付け入金とされている金額二四万〇三二〇円のもの(別表七の順号<4>記載の約束手形)及び金額二四万円のもの(同表の順号<3>記載の約束手形)については、いずれも同年一二月一八日付けで原告の総勘定元帳の受取手形勘定(以下単に「受取手形勘定」という。)の借方に記帳された後、昭和五五年二月七日付けで他に割り引かれて同月一四日付けで受取手形勘定の貸方に記帳された(ただし、順号<4>記載の約束手形については、金額を二四万〇三八〇円と誤記し、本来の金額との差額六〇円が同年九月三〇日付で借方に記帳されて訂正されている。)が、満期前に原告がこれを買い戻し、同年四月八日付けで原告の総勘定元帳の不渡手形勘定(以下「不渡手形勘定」という。)の借方に記帳した上、現にこれを所持していること、b売上台帳上、昭和五五年二月二八日付け入金とされている金額七五万円の約束手形二通のうちの一通(同表の順号<2>記載の約束手形)については、同月二九日付けで受取手形勘定の借方に記帳された後、他に割り引かれて同年三月二一日付けで受取手形勘定の貸方に記帳されたが、満期に不渡りとなったため原告がこれを買い戻し、同年九月三〇日付けで不渡手形勘定の借方に記帳した上、現にこれを所持していること、
を認めることができる。
そして、右各事実によれば、原告は甲信に対し、右各約束手形の金額の合計額である一二三万〇三二〇円に売掛金残高である一円を加えた一二三万〇三二一円の売掛代金債権を有することが認められるが、原告主張の売掛代金債権中、右金額を超える部分の存在を認めるに足りる証拠はない。
(3) もっとも、前掲甲第四〇号証の一ないし一七、二〇ないし二四、成立に争いのない甲第四、第一〇号証の各二、原本の存在及びその成立に争いのない甲第一号証、原告代表者尋問の結果により成立の真正を認め得る甲第四号証の一、第八、第九号証、第一〇号証の一、第一五ないし第一九号証、右尋問結果並びに弁論の全趣旨によれば、
ア 原告は、右(2)記載の各約束手形のほかに、甲信の振出し又は裏書に係る別表七の順号<1>、<5>ないし<7>、<12>ないし<16>記載の各約束手形を所持していること、
イ 右各約束手形のうち、a同表の順号<1>記載の約束手形については、昭和五五年一月二五日付けで受取手形勘定の借方に記帳があり、その後、他に割り引かれて同年三月一五日付けで受取手形勘定の貸方に記帳されたが、満期に不渡りとなったため原告がこれを買い戻し、同年五月一日付けで不渡手形勘定の借方に記帳したこと、b同表の順号<5>記載の約束手形については、昭和五五年一月二五日付けで受取手形勘定の借方に記帳があり、その後、同年四月八日付けで不渡手形勘定に振り替えられて同勘定の借方に記帳されたこと、c同表の順号<6>記載の約束手形については、受取手形勘定の借方への記帳が見当たらない(昭和五五年一月二五日付けで金額を五〇万円と誤記して記帳されたのではないかとの疑いもある。)が、同年九月三〇日付けで受取手形勘定から不渡手形勘定に振り替えられて同勘定の借方に記帳されたこと、d同表の順号<7>記載の約束手形については、原告の昭和五三年一〇月一日から昭和五四年九月三〇日までの事業年度(以下「前事業年度」という。)中に甲信から原告に裏書譲渡された後、他に割り引かれていたが、満期に不渡りとなったため、原告がこれを買い戻し、昭和五四年一二月一日付けで不渡手形勘定の借方に記帳したところ、甲信が同手形金の内金として金額一五二万四〇〇〇円の手形を原告に差し入れたため、右金額が同月三日付けで不渡手形勘定の貸方に記帳されるとともに、右差入れ手形が受取手形勘定の借方に記帳されたが、同手形も昭和五五年九月三〇日付けで不渡手形勘定に振り替えられて同勘定の借方に記帳されたこと、e同表の順号<12>及び<14>記載の各約束手形については、いずれも昭和五五年二月一六日付けで受取手形勘定の借方に記帳があり、その後、同年三月一五日付けで他に割り引かれ、同日付けで受取手形勘定の貸方に記帳されたが、満期前に原告がこれを買い戻し、同年四月八日付けで不渡手形勘定の借方に記帳したこと、f同表の順号<13>記載の約束手形については、昭和五四年一二月八日付けで受取手形勘定の借方に記帳があり、その後、同月一一日付けで他に割り引かれ、同日付けで受取手形勘定の貸方に記帳されたが、満期前に原告がこれを買い戻し、同年四月八日付けで不渡手形勘定の借方に記帳したこと、g同表の順号<15>記載の約束手形については、昭和五五年三月一一日付けで受取手形勘定の借方に記帳があること、h同表の順号<16>記載の約束手形については、昭和五五年三月一一日付けで受取手形勘定の借方に記帳があり、その後、他に割り引かれて同月一四日付けで受取手形勘定の貸方に記帳されたが、原告がこれを買い戻し、同年九月三〇日付けで不渡手形勘定の借方に記帳したこと、
ウ 受取手形勘定及び不渡手形勘定の本件事業年度の末日の残高は、原告の本件事業年度の決算報告書のうちの貸借対照表記載の受取手形及び不渡手形の金額と等しいこと、
を認めることができる。
しかして、右各事実によれば、同表の順号<1>、<5>ないし<7>、<12>ないし<16>記載の各約束手形については、その原因関係こそ明らかでないものの、原告の本件事業年度の決算報告書のうちの貸借対照表の基となる総勘定元帳の記載の上で、ほぼ明確かつ合理的な経理処理がされているものと認められるのであるから、原告は、本件事業年度末において、甲信に対し、右各約束手形の金額に相当する何らかの債権を有していたものと推認することができる。
(4) なお、成立に争いのない甲第一一、第一三、第一四号証の各二、原告本人尋問の結果により成立の真正を認め得る甲第一一号証の一、第一二号証、第一三、第一四号証の各一によれば、原告は、右(2)及び(3)記載の各約束手形のほかに、甲信の裏書に係る別表七の順号<8>ないし<11>記載の各約束手形を所持していることを認めることができる。
しかしながら、右各約束手形については、その原因関係を明らかにする証拠がないのみならず、前掲甲第四〇号証の一ないし一七、二〇ないし二四によれば、
ア 同表の順号<10>及び<11>記載の各約束手形については、受取手形勘定及び不渡手形勘定に全く記帳がないこと、
イ 同表の順号<8>及び<9>記載の各約束手形については、いずれも昭和五四年一一月一〇日付けで受取手形勘定の借方に記帳された後、前者が同月一四日付けで、後者が同月二二日付けで、他に割引かれて、各同日付けで受取手形勘定の貸方に記帳されているが、前者が満期に不渡りとなった後の昭和五五年三月三一日付けで右各約束手形の金額の合計額である二七〇万円がいきなり不渡手形勘定の貸方に記帳され、その後である同年九月三〇日付けをもって右各約束手形のうちのいずれか一方のみが不渡手形勘定の借方に記帳され、他方は同勘定の借方に記帳された形跡がなく、その経理処理は不自然かつ不合理であることが認められ、かかる事実に徴すれば、原告が右各約束手形を所持しているからといって、甲信に対しその金額に相当する何らかの債権を有するものと直ちに認めることはできない。
(5) 以上によれば、原告は甲信に対し、別表七の順号<1>ないし<7>及び<12>ないし<16>記載の各約束手形の金額に相当する売掛金その他の債権並びに売掛金残高一円の債権(合計八〇三万〇三二一円)を有するものというべきところ、原告は、甲信が昭和五五年三月一五日及び同月三〇日に支払手形の不渡事故を起こして事実上倒産し、原告の右債権の回収が不可能となり、また、武蔵屋物産及びエム・ジーもそれぞれ銀行取引停止処分を受けて事実上倒産しているので、原告の右債権全額が回収不能となった旨主張し、武蔵屋物産が銀行取引停止処分を受けていることは当事者間に争いがなく、前掲甲第四号証の一、二によれば、甲信が昭和五五年四月三〇日には既に銀行取引停止処分を受けていることを認めることができ、また、原告代表者の供述中には、右原告主張に沿う部分が存在する。
しかしながら、右の甲信及び武蔵屋物産がそれぞれ銀行取引停止処分を受けた事実に右原告代表者の供述を総合しても、本件事業年度における甲信、武蔵屋物産及びエム・ジーのそれぞれの具体的な資産、負債の状況、原告が本件事業年度中に債権回収のために取った措置及びこれに対する右各社の対応並びにその最終的な結果等、右債権につき本件事業年度中にその回収が不可能であることが明らかになったと認めるに足りるだけの具体的な事情は何ら明らかでなく、また、他にこの点を明らかにするに足りる証拠も存在しない。
(6) そうすると、別表三の順号<1>記載の甲信に対する債権一二九五万円が本件事業年度における貸倒損失の額として損金の額に算入されるものであるとする原告の主張は、結局全部失当であるというほかはない。
(三) 東京ファッション関係の主張について
(1) 原告は、昭和五五年九月三〇日までに東京ファッションに対し輸入雑貨品等を売り渡した売掛代金債権九一四万四八五〇円(別表三の順号<2>記載の債権)を有していた旨主張するところ、原告代表者尋問の結果により成立の真正を認め得る甲第二一、第六六号証、弁論の全趣旨により成立の真正を認め得る甲第六八号証及び右尋問結果並びに弁論の全趣旨によれば、原告の売上台帳上、東京ファッションに対する売上及び売掛金の入金等の記載は昭和五四年一二月三一日分まであり、同日現在の売掛金の残高は三二四万四八五〇円とされているが、同日までに原告が受け入れて入金の処理をした小切手のうち、昭和五三年一二月八日付け入金とされている金額一六二万八七七〇円のもの(別表八の順号<2>記載の小切手)については、支払を受けられず、現に原告がこれを所持していることを認めることができ、右事実によれば、原告は東京ファッションに対し、右小切手の金額一六二万八七七〇円に右売掛金残金三二四万四八五〇円を加えた四八七万三六二〇円の売掛代金債権を有することが認められるが、原告主張の売掛代金債権中、右金額を超える部分の存在を認めるに足りる証拠はない。
(2) もっとも、原告代表者尋問の結果により成立の真正を認め得る甲第二〇号証の一、二、第二二ないし第二六号証及び右尋問結果によれば、原告は、右(1)の小切手のほかに東京ファッションの振出しに係る別表八の順号<1>、<3>ないし<7>記載の小切手を所持している事実を認めることができるが、右各小切手については、その原因関係を明らかにする証拠もなく、また、その受入れに関する記載のある帳簿が存在することを認めるに足りる証拠もないから、原告が右各小切手を所持しているからといって、東京ファッションに対しその金額に相当する何らかの債権を有するものと直ちに認めることはできない。
(3) しかして、原告は、東京ファッションが昭和五四年一月に支払手形の不渡事故を起こし、そのころ銀行取引停止処分を受けて事実上倒産し、一般債権者の弁済に充てることのできる資産は全くなく、原告の債権は全額が回収不能となった旨主張するが、前述のとおり、貸倒れとして損金とすることが税務上許容されるためには、債権者の資産状況、支払能力等から当該債権の回収が不可能であることが、当該事業年度において明らかとなったことを必要とすると解すべきであるので、原告の右主張が、前事業年度中である昭和五四年一月に原告の債権が全額回収不能であることが明らかとなったとする趣旨であれば、主張自体失当というほかはなく、また、原告の右主張が、原告の債権が全額回収不能であることが明らかとなった時期を本事業年度とする趣旨であるとしても、右事実を認めるに足りる証拠はない。
(4) したがって、別表三の順号<2>記載の東京ファッションに対する債権が本件事業年度における貸倒損失の額として損金の額に算入されるものであるとする原告の主張は、結局全部失当である。
(四) セントラル通商関係の主張について
(1) 前掲甲第四〇号証の一ないし一七、二〇ないし二四、成立に争いのない甲第二七、第二八号証の各二、乙第五号証の八、原告代表者尋問の結果により成立の真正を認め得る甲第二七、第二八号証の各一、第二九号証、第六五号証及び右尋問結果並びに弁論の全趣旨によれば、
ア 原告は、昭和五四年八月三一日当時、セントラル通商に対して売掛代金債権一一二万三〇五〇円を有し、その支払のため、同日、セントラル通商から別表九の順号<1>及び<2>記載の各約束手形を受領して、いずれも同年九月一三日に割り引いていたが、その後右各約束手形を買い戻し、同年一一月二日付けで不渡手形勘定の借方に記帳した上、現にこれを所持していること、
イ また、原告は、昭和五四年九月二九日当時、セントラル通商に対して、右アの各約束手形に係る分のほかに七三万〇二五〇円の売掛代金債権を有し、その支払のため、同日、別表九の順号<3>記載の約束手形を受領して、そのころ、受取手形勘定の借方に記帳した後、昭和五五年九月三〇日付けで受取手形勘定から不渡手形勘定に振り替えて同勘定の借方に記帳した上、現にこれを所持していること、
を認めることができ、右各事実によれば、原告はセントラル通商に対し、右各約束手形の金額の合計額に相当する売掛代金債権(別表三の順号<3>記載の債権)を有するものと認められる。
(2) しかして、原告は、セントラル通商が昭和五四年一〇月に支払手形の不渡事故を起こして事実上倒産し、債権者の弁済に充てることのできる資産は全くなく、右(1)の売掛代金債権は全額が回収不能となった旨主張し、原告代表者尋問の結果により成立の真正を認め得る甲第三五号証の供述記載及び原告代表者の供述中には、右主張に沿う部分が存在する。
しかしながら、右供述部分及び供述記載部分によっても、本件事業年度におけるセントラル通商の具体的な資産、負債の状況及び資金状況、債権者会議の状況ないし具体的な決議事項及びこれに対するセントラル通商の対応の詳細、原告が本件事業年度中に債権回収のために取った措置及びこれに対するセントラル通商の対応並びにその最終的な結果等、右債権につき本件事業年度中に回収が不可能であることが明らかとなったと認めるに足りるだけの具体的な事情は何ら明らかでなく、また、他にこの点を明らかにするに足りる証拠も存在しない。
(3) そうすると、別表三の順号<3>記載のセントラル通商に対する債権一八四万九三〇〇円が本件事業年度における貸倒損失の額として損金の額に算入されるものであるとする原告の主張は失当である。
(五) エムアンドエム関係の主張について
(1) 原告は、昭和五五年九月三〇日までにエムアンドエムに対し輸入雑貨品等を売り渡した売掛代金債権一〇四万円を有し、その支払のために、別表九の順号<4>記載の約束手形一通の振出しを受けた旨主張し、原告代表者尋問の結果により成立の真正を認め得る甲第三〇号証によれば、原告がエムアンドエムの振出しに係る右約束手形を所持することが認められるところ、原告代表者は、甲第六四号証の二五(原告の売上台帳)のエムアンドエムについての昭和六四年一一月二四日欄の売上及び入金の記載が右売掛代金債権の発生原因たる売上及び右約束手形受入れに係るものである旨を供述する。
しかしながら、甲第六四号証の二五の右記載の売上及び入金の金額が右約束手形の金額と異なること、右入金に対応する品名欄に「返品」との記載のあること並びに前掲甲第四〇号証の一ないし一七(受取手形勘定)中に右約束手形を受け入れたことを示すと解される記載が全くないことに微すると、原告代表者の右供述部分は直ちに措信することができず、他に、原告がエムアンドエムに対する売掛代金債権を有し、その支払のために右約束手形の振出しを受けたことを認めるに足りる証拠はなく、また、その他右約束手形の原因関係を明らかにするに足りる証拠もない(なお、前掲乙第五号証の八によれば、原告は、前事業年度中に既にエムアンドエムの振出しに係る金額一〇四万円の手形を受け入れていることが認められるので、別表九の順号<4>記載の約束手形は右手形の書替手形である疑いもあるが、仮にそうであるとしても、書替前の手形が売掛代金債権の支払のために振り出されたこと、その他その原因関係を明らかにするに足りる証拠はない。)。
のみならず、前掲甲第四〇号証の一ないし一七、二〇ないし二四及び弁論の全趣旨によれば、原告は、金額一〇四万円の約束手形を昭和五五年九月三〇日付けで受取手形勘定から不渡手形勘定に振り替えて同勘定の借方に記帳する会計処理をしているが、右の処理の対象となった約束手形は、別表九の順号<4>記載の約束手形ではなく、前記の前事業年度中にエムアンドエムから受け入れている手形であって、別表九の順号<4>記載の約束手形については、受取手形勘定及び不渡手形勘定に全く記載がないことを認めることができる。
そうすると、原告が別表九の順号<4>記載の約束手形を所持しているからといって、エムアンドエムに対し、その金額に相当する何らかの債権を有しているものと直ちに認めることはできない。
(3) 加えて、原告は、エムアンドエムが昭和五四年一〇月に支払手形の不渡事故を起こし、そのころ銀行取引停止処分を受けて事実上倒産し、債権者の弁済に充てることのできる資産は全くなく、原告の債権は全額が回収不能となった旨主張し、原告代表者尋問の結果により原本の存在及びその成立の真正を認め得る甲第三六号証の二によれば、エムアンドエムが同年一〇月三一日までに銀行取引停止処分を受けたことが認められるほか、右尋問結果により成立の真正を認め得る甲第三六号証の一の供述記載及び原告代表者の供述中には、原告の右主張に沿う部分が存在する。
しかしながら、仮に原告がエムアンドエムに対し主張の債権を有するとしても、エムアンドエムが銀行取引停止処分を受けたことの一事をもって、右債権の回収が不可能となったものと断定することはできず、また、右供述記載部分及び供述部分によっても、本件事業年度におけるエムアンドエムの具体的な資産、負債の状況、債権者会議の開催の有無、その会議の状況ないし具体的な決議事項及びこれに対するエムアンドエムの対応等の詳細、原告が本件事業年度中に債権回収のために取った措置及びこれに対するエムアンドエムの対応並びにその最終的な結果等、原告の債権につき本件事業年度中に回収が不可能であることが明らかとなったと認めるに足りるだけの具体的な事情は何ら明らかでなく、また、他にこの点を明らかにするに足りる証拠も存在しない。
(4) そうすると、別表三の順号<4>記載のエムアンドエムに対する債権一〇四万円が本件事業年度における貸倒損失の額として損金の額に算入されるものであるとする原告の主張は、いずれにしても失当である。
(六) 三幹関係の主張について
(1) 前掲甲第四〇号証の一ないし一七、二〇ないし二四、成立に争いのない甲第三一号証の二、原告代表者尋問の結果により成立の真正を認め得る甲第三一号証の一、第六七号証及び右尋問結果並びに弁論の全趣旨によれば、原告は、三幹に対し、昭和五四年一〇月一六日に商品を売り渡したことによる売掛代金債権六六万六〇〇〇円を有し、その支払のため、同年一一月二〇日に三幹から別表九の順号<5>記載の約束手形を受領し、同日付けで受取手形勘定の借方に記帳した後、同年一二月二一日に割り引いて、同月二五日付けで同勘定の貸方に記帳したが、その後、同手形が不渡りとなったため買い戻して、昭和五五年二月二五日付けで不渡手形勘定の借方に記帳した上、現にこれを所持していることが認められ、右事実によれば、原告は、三幹に対し、右約束手形の金額に相当する売掛代金債権(別表三の順号<5>記載の債権)を有するものと認めることができる。
(2) しかして、原告は、三幹が昭和五五年一月ころに支払手形の不渡事故を起こして事実上倒産し、任意整理の方法による清算を行ったが一般債権者に対する配当はほとんどなく、原告の右(1)の債権は全額が回収不能となった旨主張し、成立に争いのない乙第四号証によれば、三幹は、昭和五五年一月ころ支払手形の不渡事故を起こして倒産したことが認められるほか、原告代表者の供述中には、三幹が倒産したために右(1)の債権は回収不能となった旨の右主張に一部沿う部分が存在する。
しかしながら、右乙第四号証及び右供述部分によっても、本件事業年度における三幹の具体的な資産、負債の状況、原告が本件事業年度中に債権回収のために取った措置及びこれに対する三幹の対応並びにその最終的な結果等、右債権につき本件事業年度中に回収が不可能であることが明らかとなったと認めるに足りるだけの具体的な事情は何ら明らかでなく、また、他にこの点を明らかにするに足りる証拠も存在しない。
(3) そうすると、別表三の順号<5>記載の三幹に対する債権六六万六〇〇〇円が本件事業年度における貸倒損失の額として損金の額に算入されるものであるとする原告の主張は失当である。
(七) ギフト商会関係の主張について
(1) 原告は、昭和五五年九月三〇日までにギフト商会に対し輸入雑貨品等を売り渡した売掛代金債権一〇〇万円を有し、その支払のために別表九の順号<6>記載の約束手形の振出しを受けていた旨主張し、成立に争いのない甲第三二号証の二、原告代表者尋問の結果により成立の真正を認め得る甲第三二号証の一によれば、原告がギフト商会の振出しに係る右約束手形を所持することは認められるけれども、その余の事実を認めるに足りる証拠はない。
なお、前掲甲第四〇号証の一ないし一七、二〇ないし二四、原告代表者尋問の結果により成立の真正を認め得る甲第六四号証の五及び右尋問結果並びに弁論の全趣旨によれば、原告は、昭和五四年一一月二八日ころ、ギフト商会からその振出しに係る金額一〇〇万円の手形を受け入れるのと交換にこれに対して同額の手形を振り出して、一〇〇万円を融通した上、売上台帳上、ギフト商会に対し一〇〇万円の売上があり、右金額の手形を受け入れて入金の処理をしたものと記帳し、ギフト商会から受け入れた右手形については、同月二六日付けで受取手形勘定の借方に記帳した後、同年一二月二四日付けで受取手形勘定から不渡手形勘定に振り替える会計処理をしたことを認めることができるが、右のギフト商会から受け入れた手形が別表九の順号<6>記載の約束手形と同一であることを認めるに足りる証拠はなく、却って、前掲各証拠及び前掲乙第五号証の八、成立に争いのない乙第五号証の一七並びに弁論の全趣旨によれば、同表の順号<6>記載の約束手形の満期と右受取手形勘定及び不渡手形勘定に記帳された右のギフト商会から売け入れた手形の満期とが異なること、受取手形勘定及び不渡手形勘定の記載の上では右のギフト商会から受け入れた手形は割り引かれた形跡がないのに、同表の順号<6>記載の約束手形は他に割り引かれていること、原告の前事業年度の決算報告書添付の受取手形の内訳書にギフト商会の振出しに係る満期を同表の順号<6>記載の約束手形と同じくする金額一〇〇万円の手形の記載があり、右記載は右決算報告書添付の借受金の内訳書のギフト商会を債権者とする受入保証金一〇〇万円の記載と対応することが認められ、右各事実によれば、同表の順号<6>記載の約束手形は、右のギフト商会から受け入れた手形とは別のもので、前事業年度中にギフト商会から受入保証金として振出しを受けていたものと推認することができる。
しかして、前掲甲第四〇号証の一ないし一七、二〇ないし二四によるも、前事業年度中に受け入れた同表の順号<6>記載の約束手形は、原告の受取手形勘定及び不渡手形勘定上、その処理の経緯が明らかではなく(昭和五四年一〇月一日付けで他に割り引かれたとされて受取手形勘定の貸方に記帳されている手形がそれかとも疑われるが、そうだとしても、その後の会計処理の経緯を明らかにする証拠はない。)、原告が右約束手形を所持しているからといって、ギフト商会に対し、その金額に相当する何らかの債権を有しているものと直ちに認めることはできない。
(2) のみならず、原告は、ギフト商会が昭和五四年一二月までに支払手形の不渡事故を起こして、そのころ事実上倒産し、ギフト商会には一般債権者の配当に当てることのできる資産がなく、原告の債権(別表三の順号<6>記載の債権)は全額が回収不能となった旨主張し、原告代表者尋問の結果により真正に成立したものと認め得る甲第三七号証の供述記載及び原告代表者の供述中には、原告の右主張に沿う部分が存在する。
しかしながら、原告がギフト商会に対し、主張の債権を有するものとしても、右供述部分及び供述記載部分によっては、本件事業年度におけるギフト商会の具体的な資産、負債の状況及び資金状況、債権者会議の状況ないし具体的な決議事項及びこれに対するギフト商会の対応の詳細、原告が本件事業年度中に債権回収のために取った措置及びこれに対するギフト商会の対応並びにその最終的な結果等、右債権につき本件事業年度中に回収が不可能であることが明らかとなったと認めるに足りるだけの具体的な事情は何ら明らかでなく、また、他にこの点を明らかにするに足りる証拠も存在しない。
(3) そうすると、別表三の順号<6>記載のギフト商会に対する債権一〇〇万円が本件事業年度における貸倒損失の額として損金の額に算入されるものであるとする原告の主張はいずれにしても失当である。
3 右1及び2によれば、原告の本件事業年度の所得金額は、別表二記載のとおり、四四一八万四〇五六円となる。
三 次に、本件各土地の取引に係る原告の課税土地譲渡利益となるべき金額について判断する。
1 抗弁1の(二)の(2)のア、イ及びウのaの各事実は当事者間に争いがない。
2 同bのうち、本件確定申告の際の課税土地譲渡利益の計算において、租税特別措置法施行令三八条の四第六項二号の販売費及び一般管理費の額として、原告が同条八項に基づくものとして算出した金額が二七四九万七七九〇円であることは当事者間に争いがなく、弁論の全趣旨によれば、右金額中には、甲信ほか五社に対する販売手数料の額として二六六五万〇一五〇円が計上され、また、有限会社飯能建設に対する仲介手数料五〇〇万円が計上されていなかったことが認められるところ、右二の1のとおり、甲信ほか五社に対する販売手数料の額として計上した二六六五万〇一五〇円は本件各土地の取引に係る販売手数料に当たらないので、原告の算出金額からこれを差し引き、有限会社飯能建設に対する仲介手数料五〇〇万円は本件各土地の取引について支出する経費の額で本件事業年度の所得の金額の計算上損金の額に算入されるべき金額であるから、原告の算出金額にこれを加えて、右販売費及び一般管理費の額を算出すると五八四万七六四〇円となる。
3 右1、2によれば、本件各土地の取引に係る原告の課税土地譲渡利益となるべき金額は、別表四記載のとおり四六四六万四七六〇円となる。
四 抗弁1の(三)のうち、別表五の順号<5>の控除所得税額等の金額は当事者間に争いがないところ、右二及び三並びに右争いのない事実によれば、原告の本件事業年度の法人税額は、同表記載のとおり二五九二万二四〇〇円となる。
五 本件更正に係る所得金額は右一のとおり三四五九万四九六六円であって、右二の原告の本件事業年度の所得金額四四一八万四〇五六円の範囲内であり、本件更正に係る課税土地譲渡利益は右一のとおり四六四六万四七六〇円であって、右三の本件各土地の取引に係る原告の課税土地譲渡利益となるべき金額四六四六万四七六〇円と同額であり、本件更正に係る法人税額は右一のとおり二二〇八万六四〇〇円であって、右四の原告の本件事業年度の法人税額二五九二万二四〇〇円の範囲内であるから、本件更正は適法である。
六 右一によれば、本件更正に伴って増加した法人税額は、二一八〇万〇一〇〇円であるところ、原告が、本件各土地を大塚商事に譲渡した譲渡収益の額は八二四六万二四〇〇円であるにもかかわらず、本件各土地は東洋通商株式会社に対してこれを譲渡したもので、その譲渡収益の額は六〇〇〇万円であるとして、右譲渡収益の差額である二二四六万二四〇〇円を本件事業年度の益金の額に算入せず、また、本件各土地の譲渡に係る仲介手数料の額が有限会社飯能建設に対する五〇〇万円のみで、甲信ほか五社に支払った販売手数料の額がないにもかかわらず、甲信ほか五社に対する販売手数料として二六六五万〇一五〇円を損金の額に計上して、本件確定申告に及んだことは、右二の1のとおりであり、右行為は、国税通則法六五条一項の規定に該当する場合において、法人税の課税標準又は税額の計算の基礎となるべき事実を隠蔽し又は仮装し、その隠蔽し又は仮装したところに基づき納税申告書を提出していた場合に当たるものと認められる。
そうすると、昭和六二年法律九六号による改正前の国税通則法六八条一項により、右1の本件更正に伴って増加した法人税額二一八〇万円(昭和五九年法律第五号による改正前の同法一一八条三項により一〇〇〇円未満の端数を切捨て)に一〇〇分の三〇の割合を乗じて算出した重加算税の額六五四万円を賦課した本件賦課決定も適法である。
七 以上の次第で、原告の本訴請求は理由がないからこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法七条、民事訴訟法八九条を各適用して、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 鈴木康之 裁判官 石原直樹 裁判官 青野洋士)
(別表一)
課税経過一覧表
<省略>
(別表二)
所得金額算定表
<省略>
(別表三)
販売手数料一覧表
<省略>
(別表四)
課税土地譲渡利益算定表
<省略>
(別表五)
税額算定表
<省略>
(別表六)
賃金一覧表
<省略>
(別表七)
受取手形一覧表(一)
<省略>
(別表八)
受取小切手一覧表
<省略>
(別表九)
受取手形一覧表(二)
<省略>